好きと、伝えた

瘋癲さんがめずらしく

「うちに来ない?」

と言ってきた。

そんなときは、何か理由がある。

人にもらって、私に引き取ってもらいたいものがあるのだった。

疲れているところに、重そうな荷物。

行くのか?私。

行くんだよなー、私。

迷ったときは、行く。

で、行ったはいいけど、
疲れちゃった、と伝えて、布団の上にそのまま横になっていたら、

「中に入ろうよ」

と布団をかけてくれた。

「髪の毛を撫でてちょうだい」

久々に髪を撫でてもらった。

それで嬉しくなって、女の子がおとうさんに話すように張り切って、今日のことを話した。

彼も自分のことを話した。

彼女たちとはだいたい、自然消滅。

返信が途切れてきたとき、食い下がる人はいないの?と聞いたら、

「こんなに金の無い男を追いかける人はいないよ」

と言う。

考えることが透けてみえるタイプの女性っていうのがいるそうだ。

それは、ちょっと疲れるそうだ。

全く見えない女性もいるそうだ。

それもそれで、疲れるそうだ。

「私はどっち」

「そうだなあ、透けて見えるときもあるし、そうでないときもあるし、ちょうどいいくらいなんじゃないか?」

本当かな。彼はよくその場をまろやかにするための嘘をつくから。

ああ、なんて良い声なんだろう。本当に癒される。

良い匂いだな、いい気持ち。

彼の胴体に両腕を廻して絞るように抱きしめてから、彼の顔を見て、

「わたし、瘋癲さんが大好きなの」

と言った。

「ほう」

と彼が言った。

「それは嬉しいかも知れない」

「何それ、好きじゃなくて、来るわけないでしょう、どう思ってると思ってたのよ」

「そりゃ、ちょっとは好きかなと思ってたけど」

彼は、別にそんなに好きじゃない人とも、平気で付き合うんだな。

彼の声に何かそそくさと片付けを開始するような気配が漂って、余韻を残さない話し方になってきた。

「話が面倒なほうに行くって思ってるでしょう」

彼が笑った。

「面倒なほうには、いかないから。でもどうして・・・」

私の気持ちはどうしても面倒なほうに舵を切りたがる。

「面倒なほうに行こうとしちゃうからこの話やめるわ。
とにかく、瘋癲さんが好きなの」

「わかった、わかった」

「男の人がわかったを2回言うっていうときって、話を早く終わらせたいときだよ」

「まあご飯食べに行きましょう、おきよう」

彼はそういって私のお腹を撫でた。

彼だけには、好きっていいたくなかった。

言ったら、折角ここまで頑張って保っていた何かのバランスが崩れると思って。

でも言うんだ。そして絶対に、こう聞かないんだ

「あなたは私のことを」

それは私にとって大切なことだった。

私のことを。どのくらい。いつまで。

(何を・して・くれるの)

もう、そんなことはどうでもいいんだ。

もう、壊れてもいいんだ、私は、あなたに好きだって言うんだ。

これからも言うんだ。壊しちゃうんだ。

何度でも壊しちゃうんだ。

そして返事は、聞かないんだ。

おやすみなさい。