決定的な別れ

瘋癲さんのことはすっかり諦めて、せいせいしていた12月。

 

私が、重過ぎるんだ。

私だって適当にやれば良いんだ、それだけだわ。

会いたい時に会って、聞きたくない話は聞かない。

面倒だなと思ったら、動かない。

約束も当日キャンセルで、電話も、取りたくないときには、取らなきゃいい。

 

これって、二股くらいが一番バランス良いじゃないの。

私が何をしていようと、どうでもいい訳だし、そもそも私のことに興味無いし。

 

何度もそこまで考えているうち、凄く楽になって来た。瘋癲さんをしっかり見ていた手を離した。もういいや。彼がどこでなにをしてても、どうでも良いや。私もそうする。

 

一人で映画を観に行ったら、二人で行ったラーメン屋さんが映画に出てきた。

驚いて連絡した。

「またラーメンをご一緒しましょう」

と返信が来た。

ご一緒ね。はい。いつか、あなたの都合と気分とがラーメンに向かう瞬間、私が行けるようなことがあればね。もうきっと無いだろうけど。

 

瘋癲さんの研究に関係する一文を見つけたときは、嬉しくてすぐ電話してしまった。

驚くことに「あなたの家にいくよ」という流れになってしまった。

 

え。

瘋癲さんが家に来るって。

前から、うちに来るときは「テレビを見たいしね」って何度も言ってるから、

久々にテレビを見たくなったのかしら、それとも、自分の食べたい料理を一人で作りたくなったのかしら。

(家の台所は広いけど、彼は私の作ったものはあまり食べず、自分の食べたいものを自分で作る)

 

うちに来たって、来るなりテレビをつけてずっと見てるだけ。つまらないし、音はうるさいし、電気は消さないし、食べ物は無駄にするし、なにもかもやりっ放しで、注意すると「めんどくさいなあ」って言うし、なんだかもう、家には来て欲しくなかった。

 

しかし、珍しく瘋癲さんが押して来た。

テレビなのか、料理したいのか、性欲が溜まったのか。

押しが強くて、なんとなくその時は、うけがった。

当日断ればいいと思った。瘋癲さんがよくやるように。

 

当日、丁度良い時間に断ったら、珍しくメールが来て、最初からこうなることはわかっていました。当日に断るなんてあなたの気持ちが変わったのが一目瞭然、さようなら。と書いてあった。

 

流石瘋癲さんだ。

でもさ、当日に突然断るなんて、瘋癲さんが普通にやってることじゃない。

変に思った。

 

そのあと、長いメールを送った。

 

電話に出てもらえなかったり、面倒臭がられたりすることが悲しかったけど、あなたはもう私にメッセージの返信をするほどの時間を取る気も無いんだなと理解しました。ただ都合の良い時に会うだけなら、私もそのくらいの軽さになれば良いんだと思いました。出会いサイトを再開して、他の人と会うし、寝ます。

それに伴ってあなたに対して、美味しいものを食べて欲しいとか、身の回りの世話をしたいと言う気が全く無くなりました。身の回りの世話をしたく無い人を家には入れたくないので、会うなら外で会いましょう。もしあなたの家で会うなら、汚なすぎるトイレは嫌なので、少し掃除をして頂きたいと思います。

 

そしたら瘋癲さんから、長いメールが来た。

 

家には呼ばないがあなたの家に呼ぶ時はトイレ掃除をしてね、ってのはどうなのか?あなたを軽く見たことは一度も無いからあなたの話は全てあなたの思い込みです。そう思ったことは一度もないが、女性というものは一度思い込むとそう信じるものだから仕方無い。あなたの幸せを祈ります。

 

お茶を濁された気がして返信した。 

 

あなたと同じことをしているだけです。何か違うのかわかりません。

色々聞きたいです。それも面倒臭いですか。

 

返信が来た。

 

話が通じて無いようなので要約します。2通のメールを読んで、あなたへの気持ちが無くなりました。今後あなたが恋愛するのはもちろんあなたの勝手ですが、それに僕の存在を絡めて考えないでください。

 

凄く気分が悪くなった。

軽くみたことが無い?無いのにあんなことを?私が落ち込んだ時の態度は?「電話ください」への無視は?過去の彼女のことは好きだったとか、他の彼女は紹介したとか、そんな話は?出会い系で女性と会うのは?私のことに全く関心を持たないのは??

 

電話したら、出てくれた。優しい声だった。

「まあ、あなたが悪いという訳じゃなくてね」

とゆっくり言った。

それで何を言う気もなくなってしまった。

瘋癲さんだって、もう何も答える気は無いだろう。

 

「僕はこれから出かけるから、ちょっと、このような話をしているこころの余裕は無いんだ。それじゃ」

 

瘋癲さんは面倒臭い展開になるのを避けるときにいつもする態度で、素早く電話を切ってしまった。

 

私は最後に短い御礼のメールを送った。

 

そのあともずっと考えてしまった。

あれは、何だったんだろう?

 

不思議だった。私が何も伝えなければ、何も起きなかったことが。

何も伝えなければ、私が良い感じに楽な状態に進化して、気持ちに余裕を持って会い続けられていたってことが。
(あなたが会ってくれないなら、他の人と過ごすからいいわ)

上手く生きる女性ってのは、そうやっているのだろう。

友達にもいる。2人や3人の男性と会いながら、バランスを取っている女性が。

 

軽く見たことは無いって、「大切に思っていた」ってことなんだろうか。

それとも全然違う感情だったのだろうか。

 

大切に思う女性に、瘋癲さんみたいな態度を取るだろうか。

 

結婚もお金を出すのも嫌で、こころの面倒ごとさえ引き受けないまま気楽に会うのと、

私があなたの世話をする気が無くなったまま気楽に会うのと、何が違うんだろうか。

 

出会い系サイトに登録したまま他の女性と会うのと、

出会い系サイトに登録して他の男性と会うのと、何が違うんだろうか。

 

それを聞きたかった。

その前に、私をどう思っていたのか、一度も聞けなかった。

どちらにしても、気持ちと行動に乖離がありながら、その説明を面倒がる人とやっていくのは、理解不能すぎて、結局私が我慢し続けるしか無いんだなと思った。

 

猫が大好きだけど、わたし餌やるの忘れちゃう人だから、いつも死んじゃうの。

そんな感じなのかな。

それとも、

猫が大好きだから、家の前に来たときはめっちゃ撫でてるの。え?飼うのは面倒だから無理。餌?ゴミとか捨てるのめんどくさいからあげない。

かな。

 

どちらにしても終わってしまった。

お互いにまったく拘束しない、楽な状態で続けていける妙案を発見したと思ったんだけどな。

 

「私も家の前に来たときだけ、めっちゃ撫でることにします」

って言ったら、振られてしまった。

わからない。瘋癲さんの考えていることが。

「僕は女性と付き合いながら他の女性とも寝る男だから」

って言っていた。だからむしろ

「他の男とのセックスの話を聞かせてよ」

くらい言うのかと思った。

そのくらい私には、他の女性とのセックスの話をしていた。

まるでアラビアンナイトみたいに沢山の美しい女性が、

私の頭の中で瘋癲さんに抱かれていた。

 

まあ、わからない人をわかろうとする労力は、未来がある人に対して向けるしかない。

 

曖昧なものが年越し前に全部片付いてしまった。

 

来年はもう、私を大切にしない人には近づかないし、私を大切にしていることが実感できない行動については、大切にしてるって言われても、認めない。

 

そうやって自分を大切にしていきます。

 

でも、でも。

 

瘋癲さん、瘋癲さん、本当にありがとう。本当にあなたは、あなたは、あなたは、

特別な人で、あなたのことは、一生、ほんとに大好きです、私は。

あなたにとって面倒臭い女でも。

 

この話を友達にしたら、皆が「良かったじゃん」と言った。

誰も瘋癲さんの良さはわからないだろうな。

 

珍しくて美しい生き物に心を奪われて、家に連れて帰ろうとしたけど、

私のやり方を提示するほど、彼は不幸になっていく。

身の丈に合わない人を好きになってしまった、というお話だった。

 

体を大事にしてください。あまりお薬飲んで欲しくない。

言っても、全然聞いてもらえなかったけど。

お元気で。

めげずに連絡するかも知れないけど。

わたし、執念深いから。

 

おやすみなさい。