好きとか愛とか

久々に瘋癲さんに会った。

 

翻訳で忙しいと瘋癲さんからぱたりと連絡が来なくなってしまった。

瘋癲さんは忙しいと連絡が途絶える。自分のペースが人の都合で変更されることを極度に嫌うからだ。

こちらから連絡すると、返信が来ることもあるし、来ないこともある。

 

いつもならクヨクヨと考えるところだけど、駄目になるなら、そうだとはっきりわかるまで、会いたい。少しでも会いたい。

 

仕事終わったらご飯食べませんか?と連絡したら、何時に終わりますか?、と返信が来た。会えそうだ。泊まれるかどうかは、わからなかったけど、少し会えるだけでも。

 

ご飯を食べて、深夜寄席にいって、銭湯に行って、泊まる流れになった。

 

瘋癲さんはずっと優しかった。

今日は優しいね、と言うと

いつも僕は優しいですよ、

と返って来る。

お布団で抱き寄せられて、久々に抱き合った。

 

私は次にセックスするときは、顔をしかめないように、穏やかなままでいようと思っていた。

 

正常位で挿入するとき、男の人は皆、女の顔を観察する。

 

目を開けてみると、ペニスの快感とは別な冷静さを持って、何かを確かめているように、快楽の燃料を探すように、私の顔を見下ろしている。

 

その視線にぶつかるたび、私に燃料になるような表情が出来ているだろうかと不安になる。観察されながらの正常位は落ち着かなかった。

 

一方瘋癲さんは愛撫を受けているとき、いつも体を大の字に脱力し、目を瞑って口を開けて死んだようにしている。

 

こんな感じ方でもいいんだ、と驚いた。

 

瘋癲さんは

今、気持ち良ければ、いくとかいかないとか、どうでも良いことだよ、

と言う。

私はそれにとても救われて、

 

もっと自由でいいんだ、と思ったのだ。

 

瘋癲さんと身体を合わせ、体中を撫でられ、温かくて深い幸せに包まれた。

 

幸せが高まった状態で挿入された。

目を開けたら、薄い灯りで照らされた瘋癲さんの顔が落下してくるように強く私に焼き付き、それが強烈なインパクトで私を揺さぶった。

 

瘋癲さんを感じようと静かに目を瞑ったところを、彼の腰が深く打ち込まれ、声を上げた。

 

瘋癲さんの存在が決定的に私の中を占め、たちまち溢れて私の感情を引っ掻き続けた。私は胸元を掴まれて揺さぶられるように、大きな力で何かの答えを問い正されていた。わかりません、わかりません、わかりません、

 

それが押し上がってきて目が焼け、刺されて血が出るように涙が湧いた。私は激しく突かれながら目を押さえた。涙は止まらなかった、熱くて、痛くて、本当に血と似ていた。

 

後ろから入れるよ。

体をひっくり返されて後ろから突かれ、瘋癲さんは射精した。

 

射精している顔を見たことがある。

凄く痛そうな顔をしていたから、

射精するときは痛いの?と聞いたら、

 

女だって感じていると、顔をしかめるじゃない。

と瘋癲さんは言った。

 

セックスが終わって、また体を撫でてくれる瘋癲さんに

私、瘋癲さんが大好き。

と言ったら、

もう寝なさい

と言われた。

私瘋癲さんが大好きなの。しつこい?

と言ったら

しつこいなあーと笑った。

そして

もう寝なさい

とまた言った。

 

迷惑ですか。

嬉しいですか。

 

愛してるって言葉は、あなたには使っちゃいけない気がして、

 

また私を愛してください。

あなたといると、愛されている気がするんです。

 

行為のひとつひとつに、愛を感じるんです。

 

それが私の錯覚でもいいです。

大好きなあなたに、また会えますように。