醗酵小麦狂想曲

醗酵させて焼いた穀物の味が好きだ。要するにパンが好きなのだ。

しかしそれらには生活基盤をゆさぶる三大欠点がある(価格が高い・腹持ち悪い・カロリー高い)ので、人生のお楽しみというべく、普段は極力触れないようにしている。

優良なパン屋で欲望を抑えながら、姿勢で言うと中腰のような気持ちでパンを選んでレジにいくと、レジの数字はすぐ二、三千円になる。本気で買ったら五千円くらいになりそうだ。

袋の中にゴトゴトと入ったパンからは、醗酵させて焼いた穀物の香りがふんだんに立ちのぼる。袋に顔を突っ込むようにして帰り、家に着いて袋をあける間ももどかしい。

と、いう話をすると、「そんなに好きなら、パン焼き機を買ったらいいじゃない」と言われる。

四人兄弟でパン焼き機を持っていないのは私だけだ。

(兄弟の家で自家製パンが出てくると誰よりもはしゃいでいるのでお土産にわけてくれる)

しかし買わないには訳があって、自分で作った素材の見えるパンが朝(でも深夜でも良いが)、焼きたてでホカホカとそこにあったなら、私の自制心は完全に飛んでしまうだろうと思うのだ。

朝から一斤食べてしまうだろう。裂いたパンの上でバターを溶かしながら。

そして新月が満月になる頃、私の体重も5キロくらいは丸くなっている筈だ。

そんな訳で、もっと老いて食が細くなり、「パンは一枚食べるので充分」となった頃に買おうと思う。(17の時2リットル食べられたアイスも今は1カップで充分なので、パンについてもいつかはそうなってくれるだろうと信じている)

深夜でも皮が硬くて小麦の味が立つ美味しいフランスパンなら、普通に一本食べてしまうくらいパンが好きな上に、自制心が効かないので、パンについては常に・極度に警戒している。

知らない町の細い道に、あるいは裏路地に、素晴らしいパン屋さんを見つけると、私の中では非常な高鳴りと警戒注意報が同時に鳴り出し、足が浮いてしまうくらいわくわくする。

今日は休みなので、全粒粉の食パンを一枚焼いてバターをつけて濃いコーヒーと食し、人参の細く切ったのに砕いたアーモンドとレーズンを混ぜ、オリーブオイルと酢で和えたサラダと無花果を2つで、至福の朝食だった。

朝に美味しいパンを食べられると、1日が楽しくはじまる。

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