少しずつ、遠くなる
久々の久々に瘋癲さんに会った。
と、いうのもまあ、
私が連絡したら、
パソコンが動かなくなったので家に来られますか?
という事務的かつ合理的な返事で、
家に帰る電車に乗っていた私としては、行くかどうか迷った。
瘋癲さんのような人は、放置すればしたで、恨みも何も言わず、静かになんとかしていく人だからだ。
ても、行きました。私はそういう時、行く人です。
都合が良い女と言われちゃうけど、行く人です。
だって、少しでも役に立てたら、嬉しいもの。
泊まるとなると準備がいるので、
「私、今夜は帰ったほうがいいかしら?」
と聞くと
「明日の朝は準備があるので・・・」
と返信があったので、泊まらない前提で、直行した。
パソコンは5秒で直った。瘋癲さんは極度にパソコンが苦手なのだ。
動いたー!ネットは繋がるかな?とパソコン机の前の床に座って言ったら、もう瘋癲さんの手が胸やお尻に伸びて来る。生理中だし、余所行きのワンピースを着ていたので拒否したが、蛸の足のように次から次へと強引に離さない。なんとか振り切って、ご飯に行った。
11時になっても「まだ何か頼もうか?」と、とってものんびりしているので、
わたしそろそろ帰らなきゃ、あなたも準備があるでしょう。
と言うと、
準備は明日朝、僕が勝手に起きてやればいいから。
と泊まるように促された。なんだそりゃ。。。。
早起きして疲れていたので、コンビニで必要なものを買い、着のみ着のまま泊まることにした。
シャワーを浴びにユニットバスに入ったら、今まで見てきた瘋癲さんのユニットバスの中で1番、汚かった。
どのくらい汚いかというと、描写を読んだらオエッとくるくらい、清潔好きな人なら間違いなく瞬時に帰るレベル。
彼はもう私のためにトイレの掃除さえもしなくなったんだな、と思った。
生理中だけどセックスした。彼は舐めて欲しがった。でも彼はシャワーを浴びていなかった。
随所に、慣れた感がはっきり見えた。
これから先ずっと付き合う人だったら、家族扱いになってきた、っていう解釈も出来るかも知れない。
でも瘋癲さんにそれが無い以上、私は取るに足らないものになったような気がして、何度も寂しく感じた。
「もう会えないかと思った」
「今こうして会っているじゃない」
この会話を何度もした。
それ以上に進まないよう、瘋癲さんが柔らかく、でも絶対に通さない壁を作って覆っていた。
瘋癲さんの性欲に任せたままのセックスはすぐに終わって、瘋癲さんはすぐ私の身体を離れて、目を閉じた。セックスの後のお話もしなくなったし、体も撫でてくれなくなった。
どうしてだろうって考えても。
人の気持ちは、わからない。
ただ、私の「好き」が。
掃除もしていないその辺の床に、放られていく。
そんな感じ。
私の「好き」を、よく見て欲しかったけど、大切にしまって欲しかったけど、瘋癲さんはその辺りに放るんだ。
それはコンビニのおむすびのラップや割り箸、コピー用紙や大量の埃と一緒に、
部屋の中で、ゴミと一緒に足の裏で踏まれていく。
そんな味気ない、訪問でした。
私が死んでも、また次の人を見つけるだけ。
私が居なくなっても、そっか、で終わる人。
でも、最初から「僕はセフレが欲しいんだよね」って言われたとしても、
私は彼の家に行った気がします。
完全に、火が消えるまで。
見ていたいです。私は。
気持ちが最後の息を引き取るところを、自分の目で見届けたいです。