お母さん、言わないで

母は、私を「たくましい」と言う。

 

子供の頃から、肩幅があること、腕ががっしりしていること、胸板が厚いことなどを悪く言われ続けてきた。例えばお古がまわってきたときに言う。

「ああ、ああ、何よ何よ、これも似合わないの?嫌ねえー、もうー」

新しい服を着た時に言う。

「太いわねえー、こう、ふっとーい、って感じ!これじゃ何も似合わない」

顔や髪の毛のことも言った。沢山言った。

だから私は小学生の後半くらいから、自分の身体と顔と髪、つまり見た目の全てを、非常に醜いもの、恥ずべきもの、人をがっかりさせてしまうものとして自覚するようになった。

 

母は私を見ると、何か言う。

 

今回のお盆は、3日一緒に居たけど、一日1度は何か言う。

 

「その太い腕も写真に撮っておいたわよ」

「今何キロ?普通の服は着られるの?」

「がっしりしてるわねえ、そんな体の女の人、いまどきいない体型よね」

ちなみに私は162センチの60キロ、服のサイズ11号。

母は150センチの68キロ、私の骨格は母の骨格に似ている。

母も逞しく、胸板や肩が厚い。

 

私はこれに対して何度も

「体のことは、言わないで」

って、言ってきた。

 

こんな私の体を、素敵って言ってくれる人もいる。

 

3年前、15年事実婚をしていた彼の長期二股が発覚し、

やっとの思いで母に電話して報告したとき、母は

「あら何よ。時間が勿体無かったわね」

と軽く言った。

全感覚が麻痺したまま放心状態で生活している私には、

「やっぱり、あんたまた失敗したのね」に聞こえて、私の何かが切れた。

 

やっとの思いで

「そんな言い方、ひどい」

と発声した後、そこで今まで我慢していた全てが噴出してしまった。

 

「おかあさんって、おかあさんって、どうしていつもそういう言い方しかできないの」

床を拳で叩いて泣きながら怒って、今までの母から言われた鬱憤を、昔のことも芋づる式にぶちまけた。

「体のことだって、私今まで何度も何度も、言わないでって言ってるじゃない、

私、傷ついてるって何度も言ってるじゃない、嫌だって言ってるじゃない、人を傷つけてそんなに楽しいの?嫌なの!嫌なの!!私は、嫌だって言ってるの!!!言ってどうなるの?楽しいの?嫌がらせしたいの?どうして通じないの?何度も何度も、私は、嫌だって、言ってるの!!言ってるの!!!言わないでよ!」

とかなんとか、もう思いついたこと全て、発作かと思うような引きつりで怒鳴って、そのまま渾身の力で受話器を電話機に叩きつけ、通話を切ってしまった。

 

母から「落ち着いて寝なさい」とメールが来て、私はその後2日寝込んでしまった。

 

さすがに母は、その後2年ほど体のことを言わなかった。

 

でもまた、言うようになった。通じないんだな。

 

なぜ言うのだろう、こういうとき私はどうすれば良いのだろう。

 

15日の夜、一人で帰宅して、それを引きずったまま今日買い物に行ったら、エスカレーター脇の鏡に物凄く太い、醜い中年女が毛をむしった猪のように立っていた。それが私だった。

 

あまりの醜さに絶句してしまい、それが心に刺さって動けなくなってしまった。

家に帰って鏡で自分を映してみた。そんなにひどくなかった。

うちの鏡が細く見えるのか、百貨店の鏡が悪いのか、どっちだろうと考えた。

そして自分の心理状態も良くないんだろうなと思った。

 

私の体は決して褒められた見た目ではないけど、丈夫で、しっかりしてて、ドイツ製の車のような良い身体だ。

 

醜さを責められたくない。

私は醜くない。

 

自分の名前を自分で呼んで、一人でまた、自分を書き換える作業をする。

身体は健康で、私の生活全てを支えてくれている。

 

醜くない。

醜くはないんだ。

醜いっていう人のことは、聞かなくていいんだ。