父の事故と入院
父が車に突っ込まれて救急車で病院に運ばれた。
その前にちょっとした家族のヤマがあり、大きなエネルギーが動いた感じを受けたので、「来たな」と思った。
ここで父が死んだら家族の問題が解決しない。命に別状無いだろうと直観した。
鎖骨骨折、肋骨骨折、くも膜下出血、頚椎骨折。
くも膜下出血は薬で止まったそうだ。
頚椎骨折で血管が傷ついているのがこれからどうなるか。
1日置いて、午前中にお見舞いに行った。
電車で2時間半かかる。
父の病室をのぞいたら、首コルセットをして、食事をしていた。
(頚椎装具 フィラデルフィア)
首が完全に固定されているので、視界は眼球の範囲だけ。
ベッドに角度をつけた状態なので、顔の向きは正面ではなく、上向きだ。
よって、手元が全く見えない。
そこに来て右手が事故の損傷で使えない。動かすと痛いそうだ。
父は、聞き手じゃないほうの左手で、視界のはるか下にある見えない部分のプラスチックのお皿を左手に持ったスプーンで探し探し、ここかと思う場所にスプーンを入れているところだった。
「食事?」
「右手が痛くて使えなくてね、朝は看護師さんが食べさせてくれたんだけど、自分で食べててくださいって、いなくなっちゃった」
あらあら。
忙しいからな。。。
看護師さんとの関係は、難しい。
「手伝う?」
と聞いて、スプーンで父の口に食べ物を入れた。
そんなことをするのは初めてだった。
食事は、食事は、
これはないだろうよ、と思うような食事で、
平たいお皿には青菜が入ったぱさぱさのスクランブルエッグにプチトマト2つ。
インスタントルーで作ったホワイトシチューのようなもの。
大きなどんぶりに、おかゆ。
バナナ1本。
「美味しくなさそうだなあ」
「いや、こんなもんだよ」
刑務所の食事のほうが美味しいのではないか、と思った。
この貧相なおかずで、この量のおかゆを食べろと。
おかゆ、バナナ、シチューのルー、人参、じゃがいも。
糖質が多すぎる。
そして、卵の中の青菜、シチューの中の人参やじゃがいもの切り方が胸に刺さった。
シチューの具は、モスバーガーのフライドポテトにそっくりな形だった。
やっつけで、作るなよ。
もっと切り方があるでしょうよ。
でも父の偉いところは、ほんとに偉いところは、
自分におっかぶさってきた環境に対して、それが不本意なことでも、
絶対に文句を言わないことだ。
偉い。泣けてくるほど偉い。
今日はこう書くけど、そのうち父の中の最悪な感情が出てきて、
愚痴と悪口ばかりの憎たらしい爺になって、
早く死んでしまえ、って思うかも知れないけど、
でも書く。今までの父は、人として立派だ。
あんなに立派な人が私の父だなんて。
突っ込まれた事故で。
頚椎骨折して。
もしかしたらこれからどんな後遺症が残るかも知れないときに。
母は別居で、右手が使えなくて、食事が不味くて、
突っ込まれた事故で。
どうして普通にしてられるの。
どうして嘆かないの、どうして怒らないの、どうして文句を言わないの、
どうして私がこんな目に、って言わないの、
どうしてここの看護師はなってない、って言わないの
どうして食事が不味いって言わないの
どうして、どうして犬のように、
まわりを消して、現状に集中できるの。
入院して初めてのトイレに、車椅子で運ばれていった。
戻って着た時
「下着がずれたままなんです」
と男性の看護師さんに言うと、
「先にベットにうつりましょう」
とベットにうつし、
「じゃいいですね」
と退出しようとした
「下着がずれたままなんです」
ともう一度言うと、へんな間があり、
「じゃなおしちゃいましょうか」
と彼は雑にカーテンを引いた。
父の
「こういうのは女性がやるのではないですか」
という声が聞こえた。男性にやられるのは抵抗があったのだろう。
終わって彼が出てきた。
父はけろりとした顔をしていた。
お父さん、あなたは、どっか頭のネジが取れているくらい、すごい。
どんな場所でも、引きうけるその力。
こんなに凄い人が私の父なら、私もきっと凄いものがあるんだ。
父を見ていたい。
今78歳。あと何年生きるの。
痛くなく、死ぬ直前まで、幸福でいて欲しい、私もあなたの幸福の一部になれるように精進します。
おやすみなさい。
#交通事故 #頚椎骨折 #入院の態度 #置かれた場所で生きる