石のように変わらぬ男

瘋癲さんは私に

「もっとこうしたら」

とは絶対に言わない。

 

彼女の部屋なんて、どんなに部屋が汚くても良いそうだ。

その代わり瘋癲さんの部屋も相当汚い。

清潔好きな人が見たら、卒倒するほど汚い。

 

 

何に対しても、何も言って来ない。

それが不思議だった。

 

「どうして私になにも要求しないの」

と聞いたら、こんな感じの返事が返ってきた。

めずらしく早口になって、拒絶しているような声に聞こえた。

 

俺は人間は不完全なものである、性悪説だと考えているから、

どんな人でも欠点はあると思うし、それを自分が変えようとする権利は無い。

あなたは変えられたことで何か良いことがあったのか

そんなことをしようとは思わないし、我慢するようなことがあったとしても

「今我慢するような現象が俺に起こっている」と考えるだけだ

そこでその人のやりたいことを止める権利には無い。

 

とっても驚いた。

私は、今までのパートナーから数々の指摘を受けてきた。

食べ方、立ち振る舞い、服装、音楽

確かに大きなお世話なのも、あった。

好きなものをひどく言われたことや、身体の欠点、苦手なことをできないことに苦言を呈されたこともある。

 

でも言われて学習したことも沢山ある、と思っていた

 

それが瘋癲さんの物言いで、甚だ疑問に思えてきた。

「もっと片付けろよ」

「こういう風に食べたら」

「食器にこだわらないと食事が美味しくない」

 

だから私も言ってきた

「こういう服を着たら」

「こっちに置いたほうが動きやすくなる」

「そういう食べ方しないの」

 

これって、「こうしたほうが、あなたがもっと良くなるから」という建前で、

実は「そうしたほうが自分に心地よいから」という完全な自分目線ではないだろうか。

 

そしてその自分目線って、例えば

「食べ方が汚いパートナーと一緒にいると、自分が恥ずかしい」

ってことではないだろうか

 

ってことは、よりよくなるために言ってるってのは完全な建前で、

自分だけのために言ってるのではないか。

 

そうすると、パートナーにはなーんの改善も望まない、

自分もパートナーのためになーんの改善もしない

 

そのまま同士で、

「あーあ」

って思ったところは目を瞑ってやっていく

 

そういうものらしい。

そして色々と嫌なことを言われたとしても

「あーあ」

と思ってやり過ごしている、だけらしい

 

わたし、けっこう瘋癲さんに色々言ってきた

「食べ物粗末にしないで」

「片付けたほうが頭がすっきりするよ」

「炭水化物ばかり食べたらだめ」

 

こういうの、皆、腹のなかで

「こうるせえなあ・・・」

って思ってたんだ、そんな口調だった

(むしろそう言ってくれたら良かったのに)

 

その話の続きをしようとしたら

「もう、寝なさい」

と打ち切られた。

 

面倒な話の流れになるのを避けたかったのだろう。

 

悲しくなったけど、なんで悲しくなったかといえば、

瘋癲さんが、全く私の思うとおりにならないからだ。

 

私を特別扱いしてくれないし、私の何も覚えていてくれない

未来の話や約束の方向に話を向けさせない

 

じゃ、私はどうしたらいいのか

「絶対に変わらない男性」

として、覚悟して、瘋癲さんを好きでい続けるしか無い

 

私、何度失敗しても、

「人は変わる」見込みで動いてしまう。

 

それは何故なのだろう。

なぜ人は「私の力で」変わるって、思っているのだろう

 

きっと、私が母に、強制的に、変わらせられたからだろう。

だからまわりの、プライベートに対になった人に

私の理想どおりに、私の物語に合うように

私の理想どおりに、理想どおりに、理想どおりに

私の理想どおりのあなたの理想の私に、という凄い入れ子方式で

健気なふりをしていたのだわ。

 

わたし、付き合うときにも、いつも

「この人は私によって変わってくれる」

ってのが根底にありすぎて

へんな見込みで付き合っていた。

瘋癲さんにもその見込みをかけてる。

 

いつか私だけを、特別に愛してくれる

 

でもそれは違う、明日は今日の続き。

今私を特別に愛さない人は、明日も愛さない。

 

私は私に対し、「都合の良い女として、適当に楽しく過ごす」というスタンスでしか接しない男性を選択をし、

それ以上は望まない人を選び、

だから私が本当に困ったときは、何もしてくれない人を選び、

親や友達に公にできない人を選び、

今を楽しむ

 

それだけだ

人は変わらない

本当に変わらない

 

だから瘋癲さんを選ぶなら、今を存分に楽しむことで、完全に満足しなくてはならない。

 

その人が・私によって・変わっていく

 

(私の願ったとおりに)

 

それが私のファンタジー

ファンタジー ファンタジー

 

私に興味は無くて、だた今が楽しければという男を私は選んでいる

私が何を考えているのか、どんな過去なのか、何をしようとしているのか。

 

そしてもうひとつ。

人の気持ちなんて、考えないことだ。

彼がどう思っているかなんて

 

瘋癲さんも、そこで私がどう感じていようが、知ったこっちゃないのだから

 

ああ、何度これを自分に言い聞かせても、忘れてしまう。

また期待して、期待して、期待する。

 

ああ、疲れるなー

死にたい

死にたい

死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい、死にたい。

楽に、一日も早く死にたい