雨降って、地は
夜9時半。用事を終えて瘋癲さんに連絡したら、瘋癲さんから電話があった。私たちは近くの駅にいたのだった。待ち合わせて一緒に私の家に帰ることになった。
2日連続で、私の家に来るんだな。
次の日朝、私は仕事だ。
早く出るけど大丈夫?と夜型の瘋癲さんに聞いて相談した結果、行き先を彼の家に変更することにした。
途中、餃子屋さんに入った。
待ち時間は、さかさしりとり。
「しりとり」
と言ったら、次は「し」で終わる単語を探す。
「しりとり」「うし」「ラオウ」「いくら」
時間なんて、すぐに経つ。
8組くらい、すぐに回ってくる。
美味しい、美味しい。
歩きながら彼が言った。
俺の部屋、汚いよ
強度どのくらい?
7かな
でも瘋癲さんは、ゴミはまめに捨てる。
だから彼の部屋はどんなに散らかっていても、嫌な臭いはしない。
部屋に入ると、たしかに足の踏み場も無かった。書類や本の上にバナナが落ちていた。
リモコンがみつからないから、しばらくエアコン無しの生活。
床のものをどけながら二人で布団を敷いているとき、枕元の服の塊の上に使い終わったコンドームがあるのを見てしまった。
私は頭の中が弾けたようになり、何度も大きな声で彼を呼んだ。
「瘋癲さん!」
なに?
「寒い!」
「瘋癲さん!!」
なに?
「散らかりすぎ!」
どうしても言えない。
途中彼はコンドームに気づいて、私を別の方向に向くようにうまく誘った。
待って、スマホを充電するから。
私がコンドームの方向を向いて延長コードを手にしている間、彼はコンドームを遮るように立っていた。
そして片付けるふりをしながら床の服ごと持ち上げて移動し、コンドームをさっさとゴミ袋に入れて袋の口を固く閉じてしまった。
そうか。そうだよね。黙って捨てるよね。瘋癲さんも隠したりごまかしたりするんだな。
(どうしたらいいのかわからない)
1 見たことを言うか、黙っているか
2 真相を突き止めるのか、突き止めないのか
3 その後私はどうしたいのか
私の口数は一気に少なくなり、瘋癲さんのボディタッチは増えた。
湯船に入って、ぼんやり考えた
別にショックじゃ無いのかも知れない。
いや、また反射的に封印してるだけなのかな。
瘋癲さんは面倒くさい話を嫌う。
感情的な話や、自分の未来を縛られるようや話も嫌う。
このまま見たかったことにしとくのが一番良いのかなあ。。。
お風呂で思った。違う。
前とは違う行動を取るなら、言おう。
言うけど、関係は続ける。見ました、って言ってから、こう言おう。
あなたが他所で何をしてようといいんです、新しい好きになり方を実践してるところなんです、でも、見たってことは隠したくなかったんです。
お風呂から上がってお布団に入ると、瘋癲さんが隣に入ってきて、私を引き寄せて包んだ。
こんな時でも、あたたかいな。
ちょうど1年だ。これで終わるかも知れない。
私は
瘋癲さん、残念ながら、さっき、私見ちゃったの。
と切り出した。
あとは何を言ったか忘れた。
彼は
俺セックスしてないよ。新しいコンドーム買ったからつけてみたんだ。
と普通に言った。
私はこの大ボラに吹き出して、大笑いした。彼は態度を崩さず、悠々と同じことを繰り返すので、私は
ほら気をつけて。今めんどくさい話なんだから。と彼の顔を触りながら、煽った。
精液入ってなかったでしょ、俺、新しいコンドーム買ったら自分でつけてみたりするんだよ。
たしかに、精液は入って無かった。
ここで信じちゃうって、私は騙されやすいことになるんだろうな。
でも、もう、どっちでもいい。
私、納得ずくであなたと付き合いたいから、もし今後決定的な証拠が上がったら、嘘をつかないで、昨日ひっかけた女と寝たんだよ、って言って頂戴。
と言った。
彼は
わかった。そんなことは無いだろうけどね。
と言った。
私は、あなたが好きだから、もう仕方ないの。
好きだと言うと男の人は離れていくけど、壊れるなら壊れても良いやって決めた。
あなたは徹底して私を未来に入れてくれない。私もそれにならって、今に集中したいと思ってます。
そして自分の望みは、人が持って来てくれるんだって考えは捨てて、
自分でこしらえていくんです。
好きって伝えて、前の好きな人まで、必ず返事をもらってた。
あなたは私をどのくらい好きなのか?
私たちは、これからどう言う関係に発展しうるのか?
でもあなたには聞かない、偉いでしょ。
偉い偉い。
好きって言われて嬉しい?面倒くさい?
嬉しい嬉しい。
私は沢山話した。あなたのどこが好きか。声が好き。身体の質感が好き。匂いが好き。触り方が好き。無責任なところに責任を取ってるところが好き。誰のせいにもしないところが好き。話の内容が好き。
私は言いたいことを全部話して、すっきりして、瘋癲さんの中に安心して丸まった。
私たちは何度も身体を撫であって眠った。
朝起きて、セックスをした。
そのあと一緒ににコーヒーを飲みに行った。
話しても話しても話し足りなかった。
もう少し、一緒にいられたらいいのにな。
おやすみなさい。