腕の中へ帰る
瘋癲さんと私は身体のサイズが合うので、瘋癲さんが横を向いて両腕を私のほうに放ると、私が瘋癲さんの腕と胸の籠にすっぽり入る。
筋肉が少なく脂肪がほどよくついて、皮膚がさらさらで毛のない彼の身体は私の首の下にあってもうっ血することがなく
私の首に手を載せても重くない。不思議な身体だ。
おまけに彼は裸族で、私も裸族だ。
彼が私を引き寄せて私を包むとき
また私が彼の上の腕を持ち上げて彼の中に入るとき
私はやさしいところに帰ってきたような気持ちになる。
おばあちゃんと寝ている子はこんな気持ちかな、と考える。
甘い体臭。経年でたるんできた脂肪の、やわらかな、さらさらとした皮膚。
ただいまあ。と言って彼の腕の中に帰りたくなる。
好きとか愛しているとか。
そんな言葉は、これからも使わない。
あなたといると、楽だし、楽しいし、気持ち良くて、時間がいくらあっても足りないんです。
また会いましょう。会えるときに。