与えられた場の中で

連休中、以前彼の下で働いていた女性が泊りに来た。

暫く会社を休んでるらしいんだよな、と彼が気にしていたので、

「うちに泊りに来てもらえばいいじゃない、私がオイルマッサージして、あなたがご飯作って」

って言ってみたら、本当に彼女が家に来たのだった。

彼が買い物に出ている間に、彼女の話を聞いた。

あなたのせいじゃない。でも大変だね。

あなたのせいじゃないのに。でも頑張らなくてはいけないんだね、私たちは、生きていくしかないから。




何の問題も無く、欲しいものを、成功した自分を、最初から綺麗に描ける人もいる。

車、家、理想のパートナー。



でもどうしても描けない人もいる。

駄目なのだろうか、意思が足りないのだろうか、勇気がないのだろうか。

違う、生まれてきたときから、背負っていた荷物が多いだけ。

ひとつひとつを降ろしてゆくのか、自分の筋肉を増やしてゆくのか、それとも、死ぬまでそこで足踏みを続けてゆくのか。



くだらないことで騒いだり、コントロールしようする外野を処理しながら。責められながら、脅されながら。

何をするにも時間がかかる。体力も、精神力も要る。

いいじゃないか、その場所で、運ばれた場所で、与えられた場所で、

その場所をどこまで美しくできるか、自分の存在が少しでも他の人の役に立てれば。それがいわゆる「成功」でなくたって。

個人的な夢の実現よりも、精霊を森に返すような営みの中に混じりたい。

マーブルのように交じり合った色が流れて、長い時間をかけて同じ場所に戻る。

私は自分を中心にものを考えるのではなく、もっと輪郭を曖昧にしたい。

多分、それが私の子供の頃の感覚だったのではないかと思う。

白砂糖が精製される前の雑味。