バカ愛おしい

移動する時間帯のに一番お勧めなのが、午後4時から5時の間だ。

この時間は季節によって色々な段階の遊びに夢中になっている小学生が見られるし、下校中の思春期連中もいる。

冬の4時半すぎは薄暗い。子供の力はまだまだ遊ぶ気まんまんなのに、外はもう夜の仲間。

そんな訳で子供の心も色々と大きく持ち上がる。

今日は男の子と女の子が何やら叫びながら私を追い抜いて行った。

後ろから全速力で追いかける女の子が黄色い声で何度も繰り返している。

「待ってよー、帰らないでよー!!」

前の子も何か言ってるけど、聞き取れない。

角を曲がったところで、女の子は立ったまま最後の悲しい声を振り絞っていた。ニーニー声というか、ヒンヒン声というか、子供がごねる時のあの声だ。

「待ってってばー!!ねえってばー!!」

なにか大切なものを持って帰られちゃったのかな。話し掛けようかな。

女の子はヒンヒン度を上げて、ついに叫びながら泣き出した。全身の切望が絶望にかわってゆくそのグラデーションが鮮やかで美しく、その体を振り絞るような泣き方は、暗い大きな団地にニーニーと響いた。

「ねえってばー!!(泣)帰っちゃたら(泣)、全員(泣)、つまらないよー!!(泣)」

私はその脇を通りながら、愛おしさで全身が逆毛立った。

なんというけなげさ。なんというバカさ。

バカ愛おしい。これに尽きる。

自分もこうだったのだろうか。どうして思い出せないんだろう。