美しい17歳

ここ暫くずっと心の調子が悪くて、なんのためにこんな面倒臭い人生を続けなくてはいけないのか、そればかり考えていた。

無気力になり自分ばかりを責める思考回路が霧のように日常にかかると、それを取り除くのは大変な作業だ。

気が付くと、どこからともなく聞こえてきていた音に気付く。消したくても、この音はどこから聞こえてくるのだろう。

わからない限り、消すことができない。そんな感じに似ている。

しかし、この重さが始まるのにはだいたいはっきりした原因がある。

その原因が私の一番悲しい点を刺激して、そこからゆっくり煙が立つように始まってしまうのだが、

いつどこでどのような刺激を受けたかを特定するのがとても厄介。

私の隠蔽部隊が、心に刺さる出来事が起きた瞬間、さもなんでもないように封印し、日常と同じ色合いにしてしまっているからだ。

私は、小さいことに傷ついてはいけないし、元気でいないといけない。なぜなら私からそれを取ってしまったら、何も残らないから。

こまかく過去に戻り、色よりは匂いを嗅ぎわけてゆくように合致した出来事を特定し、取り出して机に広げ、冷静に分析をし、「確実に歪んだ味方でものを見ていた。実際そんなことはなかった」と自分で納得しないと、燻り出してしまった無気力の泉は消えない。

その作業をしないまま気分転換ばかり繰り返したり、自分を元気づけようとしても、結局上手くいかない。

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今日、そのキーとなる出来事がふいにわかった。

息子とお盆の折、電車で話していたときの話だ。

なんの話からこの流れになったのだろう、息子はこんな話をした。

−お父さんが再婚しようとした時は、ああ、俺のことを考えてくれる人なんか誰もいないんだって思った。

私はそれを聞いて、落ち着いて私なりの解説をした。息子が聞いていたのかどうかわからない。多分、聞いていなかっただろうと思う。

どうでもいいよね、今さら、そんなこと。

今から、熱く語られても、さ。

私は、「誰もいない」の「誰も」の中に自分が入れられていたのがショックだった。

−離れていても、離れているからこそ、お前の気持ちはいつでも受け止めるよ。

息子にはいつもそうしたメッセージを、言葉で送ってきた。

でもそんなの、息子当人が浴びた現実からしてみれば、ちゃんちゃら役に立たない大人のロマンに過ぎなかったのかも知れない。

息子にとって私の放ってきた言葉は

−とっくに遠くで他の男と生活してる人が、いろいろと綺麗ごとを言っている。

それだけだったのかも知れない、そうかも知れない。



そう考えた時、私の存在の意味が大きく揺らいだ。

私の中の悪いエネルギーたちが一斉に息づき、騒ぎ出した。

お前の、お前の、無様な人生!!誰のことも幸せにできない、誰の役にも立ってない!!(見ろ、息子の役にさえ!!)

それが私を取り巻いていたのだった。

原因がわかって、息子のことを考え、ひとしきり泣いた。

息子を手放したことで、彼をどれだけ傷つけたか、わからない。

こんな母親で本当に情けないけど、あの時息子を手放さなかったら、確実に潰しちゃっていたんだ。心も、もしかしたら、体さえも。

未熟で空っぽで、分裂していた。粉々だった。激しい愛情と、躾への恐れと、それから息子の気質と。

母がしたようにしたくなかった。絶対に、自分のように育って欲しく無かった。どうしようも無い感情の中で、沢山息子を叩いた。止まらなかった。もうそうするしか無かった。

私はその罪悪感と悲しみで一生泣けるけど、息子は思春期に入り元気に生活している。毎日の新鮮な生活を、両手で力一杯進む。

元気で生活していれば、それでいいんだ。私が死ぬことで彼の人生にまた影を落とすなら、生きていよう。みじめに見えないように、いつまでも元気で、笑顔で。



お前さんの考えてることなんて全てお見通しだと笑っていたのは、もう何年前の話だろうか、

お前はいつから何でも自分で選択するようになっていたのだろうか。

あと1週間で17歳、美しい美しい17歳。