新しい場所へ

彼とめずらしくゆったりした休日を過ごした、夜。

カウンターで、彼が今まで聞いたことのない話をしてくれた。

話を聞くうちに、私の中の芯がゴトゴト音を立てて揺さぶられた。

この人は、脱皮しかけている。

新しい世界へ。

自分を守るために、未熟ながら全身全霊で、経験と知恵をつくして作って来た彼の鎧。

その背中が割れている。

脱いでもいい世界に来たんだ、あなたは、もう、丸腰でも大丈夫なんだ。

あと何日かかるだろう。自然に脱げるまで。

怖くて、また戻ってしまうかも知れないけれど。

ああ、この人が丸腰になったら、世界はどんなにやさしくあなたに手をさしのべるだろう。

あなたは頑張って来た、そして今も頑張っている、沢山のものを背負ったまま。

丸腰になったあなたを騙す人も、馬鹿にする人も、もういない世界にいることに気づいて。

私が見ている、世界も見ている、あなたが鎧を捨てたとき、

凄いエネルギーが動き出す、あなたに向かって。

あなたへ向かって。