人生においてすぐに忘れてしまう大切なこと

祖母が亡くなり、通夜、告別式と続いた。

元夫は東海地方から駆けつけてくれた。息子も一緒に来てくれた。
私の家族は全員、元夫の気持ちに感謝の気持ちを表して、皆が彼を取り巻き、気を使った。

元夫は家族席に座った。息子と前に出て焼香をした。
しかし、10年一緒に生活してきた彼は、その場にいなかった。
そのとき私は、何かおかしくないか?と思ったのだった。

彼は、なぜここにいないのか?
ただの恋人なのか?そんなトシなのか?

ただの彼氏か。
そうか。そうなのか。



待てよ。私の父母が死んだら、彼はどうするつもりだろう。
家族として、参列するのか?

いや、それより前に、彼が死んじゃったら?
喪主は誰がやるのだ?彼の両親はもとより、親戚、兄弟、誰もいないとなると、元嫁と娘達の家族になるのか?

彼は元嫁と娘達に私の存在を知らせていない。
それでは私は、一般客としてしか参列できないのではないか?

なんか、おかしくないか?私の存在。

そこで今までなあなあになっていた結婚について考えるに至った。

こちらの気持ちを正直に書くと、結婚しても、しなくても、どうでも良かった。

しかしなんというか、これだけ長く一緒に生活し、彼を支えて来て、只の彼女ですか、と思うと、自分がとっても都合の良い女のような気がしてきたのだった。

彼にその話をした。

−結婚がいつまでも先延ばしになってるけど、私達、結婚するの?
−するよ。する。
−いつ?
−上の娘が二十歳になったら。

この空気感。経験上わかる。実行する計画として考えられてはいない。借金のときと同じ、逃げのにおいだ。

−じゃそれまでにあなたに何かあったら、私はどうなるの?
−どうなるって?

彼の父親は40代で急死している。彼は人が死ぬ仮定の話が好きではない。ましてや自分の死の話となると、尚更だ。

そしてこういうことを考えようとしない男と、考えて欲しい女の会話は往々とした例に漏れず、お互いが納得する到達点に、なかなかたどり着かないのだった。


私と一生いる気持ちで付き合い続けているのなら、自分の死後の心配を娘達にするように、私にもして欲しい。

ああ、この抽象感。

結局彼はこう言った。
−結局、俺が死んだ後の金の問題だろ?

どんなふうに説明しても、彼はこう言うのだった。
−そんなの綺麗事だろ。俺が死んだら、金が欲しいってことだろ。

駄目だ。通じない。あー誰か助けてー!

話が進まない。頭の中で何かが消え、そして私は彼にそう言い切った。

じゃ、もう、いいです。お金の問題で。

娘達にするのと同じように、私もことも考えてください。




結論。

「私を受取人にできる生命保険を探す」



それでいいんでしょ?

・・・・何かが違う。気持ちが違う。

違う、違う、違うんだよなあー。

話しながら、もうどうしたいのかわからなくなってしまった。

死んだ後の話についてしつこく詰めるってのも、どうなんだろう。引き寄せの法則なんてここに作用された日にゃ、大変だ。

でも彼に万一のことがあったとき、法的に優先されるのは娘だ。駆けつけた私に元妻から「どなた?お引取りくださいませんか?」なんてことになったらあんまりだ。

どうして通じないんだろう。

疲れる。

価値観が違いすぎるんだ。




そのとき急に思い出した。

この感じは「責任を人に預けながら、その人を思い通りにしようとしているとき」だ。

あなたが。(こう言ったのに)

あなたが。(してくれない)

あなたが。(わかってくれない)


考える軸の主語が自分から離れている。

自分に軸を戻さなければ。

ぐぐぐぐぐ。(このとき私の中で本当にこういう手応えがある)


戻した。じゃ、私はどうしたいのか?

「彼が自らすすんで元妻と娘二人に私の存在を打ち明け、自ら進んで結婚にむけての前向きな話し合いをして欲しい」

いや、これは「彼にどうしてほしいのか」じゃないか。



また私は自分で考えていない。

人になんとかしてもらおうって思っている。

自分はどうなりたいのか?

私は井戸に耳を傾けるように、自分の声を拾おうとした。

井戸の中に色々な音が反響している。

雑音が多すぎて、聞こえない。それとも何も言っていないのだろうか。

先に気持ちを鎮めないと駄目だ。




私は気が付くと「自分はどうしたいのか?」を一番後回しにしてしまう。

忙しさにかまけて後回しを続けると、私の声は萎縮をはじめ、どんどん小さくなってしまう。

すぐ忘れてしまう。
私は自分で考えることができ、
決定することができ、
実行できるのだ
ということを。

結婚したいんだったら、「してくれる」のを待つものじゃないぜ。

そんな日本女子的なプロポーズの規定は、もうどうでもいいや。

結婚したかったら、彼を抱えて、区役所へ走ってゆけばいいんだ。

もう、そんな調子で生きることに決めたんです、これからは。