果物は外側だけ

今、瘋癲さんが間仕切りの無い隣の部屋で寝ているのです。

 

昨日の夜、家に来たのです。

 

私、昨日の夜から、なぜかあまり瘋癲さんを好きに思えなかった。

会った時から、違う感じがした。

 

そして、彼は相変わらず、家の電気も消さないし、細かい生活のルールに杜撰で、

「電気消してきて」と言うと「めんどくさいなあ・・・」、と言う。

 

とにかく人と暮らすのが嫌だと常々言っているのは、どこでも隅々まで完全に自分の思うように生きたいということで、

 

そのあまりにも我が儘な言い分も、彼の

「どうかなあー」

というゆったりした口調にかかると、そんなに勝手に思えてこない。

 

でも、「汚くなるわ。今ここで片付けて頂戴」というような、

強くものを言う女性にかかったら、彼は「その場は」従う。

争うのが嫌だから。

 

そしてあまりよりつかなくなる。

 

そんな訳で、彼はうちで焼きソバを作ったのですが、

うちの野菜は平気で無駄にするし(刻んだ野菜を使わないで放置とか)、

まな板や菜ばしの置き場所をいちいち全部聞くし(全く覚える気が無い)

2玉の麺にあの濃い味の粉ソース3袋、すきあらば液体ソースも足したりするし、そしてそれを一人で食べてしまうし、

フライパンもお皿も流しに漬けっぱなしだし、

(私が強く言えば洗うけど、彼は基本洗い物は何日もしない)

ずっとテレビを見て、食べて、寝る。

 

私はいつものような気持ちで彼に寄り添えないことが不思議で、セックスもしたくなくて、プラスチックのような身体になったような気持ちで、彼の隣に寝た。

 

彼はいつも様々なことを敏感に感じ取るので、少し私の身体を撫で回すと、隣に寝ているのは人形だ、というようなあっさりした態度に変わった。

 

並んで横たわりながら少しお喋りをしたけど、おしゃべりも弾まなかった。

しっくり来なかった。

 

でも彼に色々なことを聞いた。

多くの女性が彼と付き合ううち、外側に位置されたままの自分の存在を、もっと彼の生活の中心に置きたくなってくる。

そして一緒の未来を確定しようとしたり、同棲の提案をしたり、結婚したいといったり、子供が欲しいと打ち上げる。

 

でも彼は人に合わせて起床するとか、光熱費が勿体無いから冷めないうちにお風呂に入れとか、人のルールに合わせて電気を消したり片付けたりとか、そういうことが大嫌いなので、とにかく基本一人で好きなように、

「自分の好きなときに好きなことを好きなようにやる」

が最も大切な人なので、どんなに好きな人の提案でも、断ってきている。

 

6年同棲していたとき、1階と2階に部屋を分けていたそうだけど、それでも窮屈だったそうだ。

 

なのに、「彼女が欲しいなあ~」とメッセージした出会いサイトを開放させたままにして、獲物を探している。

 

自分の生活が何より大切なのに、どうしてそんなに彼女が欲しいの。セックスのため?

と聞いたら

僕はそんなに彼女が欲しいと言うわけでもないよ

と言った。

 

(多分こうしたキーボードの音も「ああ、うるさいなあ・・・・」って思って寝ているのかも知れない。でも起きるともじゃもじゃの髪であたりを見渡してから「ああ、緑がいっぱいだ・・・」って夢のように呟くんだ)

 

女性がすきなんだね。

そうだねえ、女性というよりは、女性性がすきなのかもしれない

 

女性性ってのは、深く掘っていくと、やっぱり相手と一緒になりたいって思うものじゃないの。

いや、週ごとに男をとっかえひっかえするような、精神的にも経済的にも独立した女性もいる。アメリカには多かった。

 

そういう付き合いが理想なんだな、と思って、

女性性が好きって、浅く好きなのね。

 

と言ったら、そうかも知れない

と言っていた。

 

種があるとこまで、食べる気は無くて、

周りの果肉だけ食べていたい。

そこが一番香りが良くて、美味しくて、芽も出ないんだ。

 

ハーイ、って会って、楽しい話をして、セックスをして、解散する。

 

女性もそこだけ求めてくれたらいいのにね。

精神的に自立している女性。

そうだったら、20年くらい、同じ人と付き合っていたかもね。

 

そうだなあ、そうかも知れないなあ、と瘋癲さんは言った。

 

私はなんだか、それで、割とすっきりした気持ちになった。

 

根っから、そういう女性が良いんだな。

自分は勝手でありながら、相手にはしっとりした部分を望んでいるのかと思っていた。

男の美味しいとこだけを食べ歩く女性、が良いんだな。

 

いるなあ、でも瘋癲さんは、どうしてそういう人に会えないのかしら。

 

男にとって「美味しいだけ」の女は見た目と性格で、

 

女にとって「美味しいだけ」の男は見た目と、いかに夢を見せてくれるか、であって、その「夢」は所謂「夢」だから、財力や権力がマストなのかも知れない。

 

まあ、いろんな女がいるからね。

と瘋癲さんは言った。

 

柔らかい果実だけ齧ったって、つまらない。

芯までたどり着いて、

絶対に種を取り出して、土に植えたいわ。

 

と思ったけど、

自分ひとりで生きるって決めて、異性はエッセンス、って生き方も良いのかも知れない。

 

自分も相手も「今」しか見ない。別れたら何をしてても良くて、背景には無関心で。

「今が楽しければ、いいじゃない」

っていう。

 

これは子供が独立した男女ならではの醍醐味かも知れない。

「一人で死んでいいの?」「一人で年取ったら、迷惑だよ」

そんな言葉も軽々乗り越えて。

 

最後は後悔するのか、満たされて死ぬのか、それだって、自分で決めるんだ。

 

婚活、するけど、どうなのかなあ。。。

 

まあ、1年はがんばってみよう。

 

「こうして緑の中の知らない家で目を覚まして、夏の風が抜けて、あなたの声が部屋に響いて、それに返事する僕の声が部屋に響いているのを聞いていて」

 

瘋癲さんが夢のように呟く。

 

(今が楽しければ、それでいいじゃない)

そうなんだろうか。

 

それとも、キー!甘いわ!!一緒に辛苦を乗り越えないと、本当のパートナーじゃないわ!!!っていう私の呪いだろうか。

 

パートナーはそんなに大切なのだろうか?

 

そのあたりを考えてみよう。

ではでは、今日も良い日に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

嘘と植物

瘋癲さんが家に来た。

 

この間、瘋癲さんに会った時間が嬉しくて、楽しくて、また会いたくなったので、私から誘った。

 

瘋癲さんは私の家までの道のりを記憶する気が全く無い。

私が迎えに来ると信じ込んでいるからだ。

 

一緒に買い物をして、帰った。

瘋癲さんが食べたいものを買い、料理は私が作った。

 

瘋癲さんは、くつろいでいて、楽しそうだった。

「ここは快適でいいなあ」

と言った。

 

家が快適なのは、私が快適だからよ。

 

今そう思う。そのときは只嬉しくて、思いつかなかった。

 

僕は15万の月給しかない男だから

と何度も言っていた。

でも私、知ってる。

私、月給18万だったとき、

家賃は3万9千で、それでも貯金を毎月3万積み立てしながら暮らしてたことがあるし、

元旦那さんは表現者だったので、もっと少ないお金で生活しなくちゃいけないこともあった。

 

カフェなんて、入れなかった。コンビニでものを買うなんて、できなかった。

 

1円でも安いところを探して、8円、10円、30円と切りつめて生活した。

瘋癲さんは7万5千の物件に住み、諸経費を沢山かけている。

パソコンサービスや、呆れるけど出会い系サイトとか。

そして毎朝カフェで朝食を食べ、コンビニで水やお茶やお酒を買っている。

電気や水も全く節約するつもりが無いし、とにかく大量に文房具やなにやら、すぐに買う。

貯金が無いと前から言っていたので、それが本当だとしたら、

どこかから、毎月送金がある筈だ。

多分8万から10万の送金だと思う。

別れた女性か、パトロン的な女性がいるのかも知れない。

 

15万って聞くたびに、どうして嘘をつくのかな、と思う。

そういうところは、なんだか小ずるくて、嫌いだ。

 

瘋癲さんにとって、好きって、どういうこと

って聞いたけど、心臓がドキドキする人とかなんとか言うだけで、

面倒臭がって取り合ってもらえなかった。

 

明日友達と会うけど、くる?って聞いたら、

女って複数になるとすぐ結婚とか言い出して、面倒くさいじゃない

と拒否のオーラを全開にした。

 

うちの植物を褒めるので、切って、包んで渡した。

私が育てたものが瘋癲さんの家に入る。

嬉しいことだ。

でも、彼はすぐ駄目にしてしまう気がする。

植物が瀕死の状態になっているのを見つけたら、持って帰ろう。

 

私のことは、好きですか。

都合が良くて、セックスができて、面白いだけですか。

そう考えると、本当に胸が苦しくなる。

 

ネットで「都合の良い女」を検索すると、

まさしく私のしていることが羅列されている。

 

 

まあ、仕方無いや。

私が別の探しをするって知ったらどう思うんだろう。

まあ、なんとも思わないんだろうな。

 

仕方無いや。

私をまるごと、未来まで愛してくれる人が、みつかると、いいなー。

恐いくらい、幸せになりたい。

こんなことが起きるんだ、今までがんばってきて良かった、って、泣きたい。

そんな相手をみつけたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ファンタジー記録

こないだ瘋癲さんちに泊まったとき、嬉しいことを2つ、言われた。

 

風変わりな見た目のおじさんが一人でやってる飲み屋に入ったら、

「あんたたち、夫婦かい」

と聞かれ、

私は瘋癲さんの後ろで細かく頭を振った。

瘋癲さんは

「まあ、まあ、そんなものです」

と言った。

それが不思議だった。

 

多分、瘋癲さんに聞いたら、

こう言うだろう

「そう答えておかないと、後で色々と質問が、面倒臭くなるじゃない」

って。

 

家に帰っても不思議だった。

そして勝手に嬉しく思った。

まあ、こなれてる人なら、そう答えるよね。

私が馬鹿正直で、変わってるだけだ。

 

今思うと。

好きじゃない人とのほうが「夫婦ですよ」って言えるのかも。

私だったら、平気で言いそう。

まあ、いいや。

 

もうひとつ。

朝、私が動き出したら

「起きるの」

と瘋癲さんが言った。

瘋癲さんは私に早く出て行って欲しいのだ。

彼は一人のほうが、よく眠れるから。

「起きないよ」と言ってまた寝た。

トイレに行こうとすると

「起きるの」

と聞くから、黙ってトイレに行った。

戻ってくるとまた

「起きるの」

と聞くので

「もうあなたとは口をきかない」

「どうしてだい」

「私を追い出そうとするから」

とふざけたら

「そんなことないよ」

と言って一泊置いてから

「ずーっと、隣にいて欲しいと思ってるよ」

と言った。

それがあまりに適当な物言いなので

「棒読みなんだけど」

って言ったら瘋癲さんは笑った。

 

私が枕元のスマホを見たときに、また同じ会話をした。

 

家に帰ってから、思い出して、嬉しくなった。

 

面倒くさいから出てきた言葉。

適当にフォローするために出てきた言葉。

 

そんな言葉でも、私は嬉しい。

好きって、なんだろう。

あなたが大好き。

ずっとずっと一緒にいたい。

 

おやすみなさい。

 

 

感情を切り離して

身近な人の立ち振舞いに関して感動したことがあった。

 

感情を切り離して、現状が良くなるような行動だけを取り続ける。

 

瘋癲さんもそうしている。

 

だから私もそうすれば良いのではないかと思った。

 

悲しいことについては、考えない。

 

今を、今だけをもっと、切り出して、昇華させる。

 

好きな人と居られないことを悲しむより

今何をすれば私の、今の、この場が良くなるのか、

それだけを考える。

 

瘋癲さんもそうしている。

何してるんだろう、会いたいな

って思う人は、いるそうだ

 

でももう、仕方無いそうだ。

 

私も同じだ。

どうしようもないことは、考えない。

今、できることをする。

 

どんな手を使っても、あなたに、会いたい。

瘋癲さんに、会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

好きってなんだろう

瘋癲さんの家に行った。

久々だった。

 

真夜中12時から歩いてお蕎麦を食べて、猛烈に変わってるおじさんが一人でやってる小さな酒場に入った。

 

雨の中二人で歩いて

瘋癲さんの部屋でシャワーを浴びた。

 

長いセックスが開始されたけど、瘋癲さんは珍しく酔っていて、射精できなかった。

 

彼はセックスに関しては驚異的な体力があるので、長く突かれて、膣が痛くなった。

 

朝、セックスをして、少し寝て、身支度をしている途中彼が

また、突きたくなった

と私を布団にいざなった。

 

一回ごとに骨に響くような重い突きは、

身体の芯に届いて、

私は悲しくなる。

 

後ろから入れるとき、どうしてお尻を叩くの

と聞いたら、

叩いてくれって言った女性がいたから

と言った。

 

叩子さんとは3年付き合って、彼女が他の人とお見合いすると言ったので、連絡を取らなくなったそうだ。

 

そこまで好きでもなさそうだった。

本当に好きになった女性に対しては、遠くまで会いに行ったり、するそうだ。

 

若かりし頃、シカゴまで行ったことがあるそうだ。

 

私のことは。

まあ、多分そこそこ好き、なのだろう。

 

何度も聞きたくなった。

聞きたくなった。

私のことはどのくらい好きですか。

 

でも聞かなかった。

はぐらかされるだけだから。

だから悲しかった。

 

これも一種の片恋だよな。

 

好きってなんだろう、って、友達と話したとき

彼女は

侵食するのを許すこと

と言った。

 

私の「好き」は

「好奇心の強度」に尽きる。

彼女と話してて、そう思った。

 

もっと知りたい。

私のことも知りたいと思って欲しい。

 

瘋癲さんとはその強度が全然合わない。

だからセックスするし、楽しいけど、片思いだ。

 

朝一緒にコーヒーを飲んだ。

いつまでも一緒にいたかった。

 

好きななる人と、うまくいかないな。

 

ほんとに、うまくいかないな。

 

お見合いの会社に登録した。

 

言いますけどね、本当は、

瘋癲さんと永遠の愛を誓い合いたいですよ。

あなたが大変なときは俺だってなんとかするよ

と言われたいですよ。

僕の故郷に一緒に行こうよ

あなた、父に会う?

って、言われたいですよ。

あなたは特別だからね

あなたとはなるべく長く居たい

って言われたい。

 

でも言われない。

 

だから仕方ない。

 

 

 

会いたいって、なんだろう?

会いたいって、結局なんだろう?

何が起きているんだろう?

 

30分だけでも会いたいっていうのは、話をしたいんだ。

触らない、話もしない30分だったらどうだろう。

 

ただ一瞬に歩くだけで嬉しいかも知れない。

 

「話すこと何もないけど?」

と言われて、

「いいよ!黙ってて」

と言えるほど強くない。

 

やっぱり

「あなたがいるのは、いいね」

ってムードの中に入りたいんだ。

 

あなたと時間を過ごすのは、いいね

 

いいね

ってのは

安らぎ

楽しさ

癒し

 

かな

 

力を抜きながら、わくわくできる。

 

今何してますか。

会いたいなあー。

 

よし、自分のことをしよう!

自分の中で見つけよう。

 

 

 

 

 

丸腰

私から会いたいと言うのを止めると

瘋癲さんから連絡が来るようになった。

 

恋愛本にもそうやって書いてある。

その通りになるんだな。

私の気持ちは変わらないのに、笑える。

 

ただ私は、邪魔そうにされるのが嫌だから、腹をくくっただけだ。

 

そんな訳で今日も瘋癲さんから連絡があって、瘋癲さんの仕事場の町まで夜ご飯を食べに行った。

 

私の職場から1時間かかった。

 

私たちは海の匂いが生ぬるく押し寄せる裏道で、安い居酒屋に入り、小さなゴキブリがフナムシかと思う数と自由度でカウンターをうろついているお店でご飯を食べた。

 

普通の女性ならアウトだし、虫が嫌いな人、または清潔好きな人もアウトだ。

 

でもゴキブリたちは注意深くカウンターの奥を歩き、私たちの邪魔をしなかった。私は虫を観察するのが好きなので、皿の下から現れた彼らが、大きく張られた触覚を細かく震わせながら左右に動く様子を見ていて飽きなかった。

 

普通の女性なら

「こんな店!あたし大丈夫にされてない!!」

って言うだろう。

 

私は、別に良い。

瘋癲さんと話が出来れば良い。

会話が聞き取れるくらいの店なら。

 

大事にされてなくても良い。

こうしてたくさんお話しできるなら。

 

今回で会えなくなるかもって思いながら会う。

 

明日仕事があるから、今日はあなたの家には行けないけど、と最初から鍵を刺してきた瘋癲さんが、

「明日僕を10時に起こしてよ」

と言った。

「??電話で?」

「あなたの家で」

「明日仕事があるんでしょう、帰りなさい」

 

瘋癲さんは以前私と楽しく時間を過ごしていたら、仕事先の約束をすっぽかしてしまったことがある。

 

またそんなことにはしなくなかった。

 

あなたの家に帰りなさい。

よく、言えましたね、わたし。

 

あっさりと駅で別れてきた。

わたし、振り返らない。

 

着いただの、楽しかっただの、メールもしない。

 

瘋癲さんとはそのくらいじゃないと、溺れてしまう。

好きだから。

 

わたしの

好き

は。

重いんです。

 

あなたの負担にならないように

極限まで間引きしながら。

 

おやすみなさい。